大判例

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名古屋高等裁判所金沢支部 昭和30年(う)320号 判決

刑法第二十五条第一項の解釈に関する最高裁判所の判例(昭和二十八年六月十日大法廷判決、最高裁判所判例集第七巻第六号一四〇四頁以下)は、必ずしも検察官所論の如く、法令の改廃に依り、既に適用の余地なきに帰したものでなく、刑法第二十五条第二項の規定が新設された以後に於ても、なおこれを適用すべき余地乃至実益が存在する(最高裁判所大法廷昭和三十一年五月三十日判決参照)と解し得るから、従つて、所謂余罪に対し、刑法第二十五条第一項を重ねて適用する余地全くなしとする論旨には、俄かに左袒するを得ない。尤もこれを記録に徴すれば、(一)被告人は昭和三十年九月十四日福島地方裁判所に於て詐欺罪に依り懲役六月、三年間執行猶予の言渡を受け、該判決は同年同月二十九日確定したこと、(二)被告人の本件所為は、さきの判決言渡後に敢行され、さきの判決確定後に起訴されたものに係り、従つて、本件を具体的に観察する限り、さきの犯行と同時に審判され得る実務上の可能性は、全く存在しなかつたものであることを看取し得ない訳でないけれども、しかしながら、事件発生当時の状況を基準として、本件を一般的見地より考察すれば、本件の如きもまた、さきの判決確定前の犯罪として、該事案に対し、所謂余罪たる関係にあり、なお今後上級審に於て、先行の犯罪と同時に審判され得る法律上の可能性全くなしとするを得ないものであつたことを認めるに足る。そうして見れば、仮令、敍上のような具体的事情があるとしても、なお本件に対しては法律上刑法第二十五条第一項を適用する余地全くなしと断定するを得ないから、この点に関する論旨は、これを採用することが出来ない。

次に原審量刑の当否に関する所論を検討すべく、記録を精査するに、(一)被告人は、敍上の如く、さきに詐欺罪に依り懲役六月、三年間執行猶予の判決を受けながら、毫も改悛の情なく、右判決言渡の後、旬日を出ない間に、さらに本件詐欺罪を敢行したものであること、(二)被告人には放浪癖があり、その住居も不定であること、(三)さしあたり、被告人を保護し監督してくれる適当な人者が見当らないこと等の諸事実を肯認することが出来る。此の外被告人の性行、経歴、境遇、犯罪の状況等、記録上認め得る諸般の情況を斟酌すれば、被告人に対しては、此の際刑の執行を猶予すべきでなく、寧ろ懲役の実刑を科すべきものと考えられる。そうして見れば、被告人に対し懲役六月、三年間刑執行猶予の言渡をした原判決の量刑は、軽きに失するものであるから、論旨は理由があり、原判決はこの点に於て破棄を免れないものである。

(裁判長判事 水上尚信 判事 成智寿朗 判事 沢田哲夫)

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